終わらない夏に終末感が漂う中で、
誰もが誰かの背中を追い、
誰かを待っている。
カセットテープを
巻き戻していくかのような旅が今、始まる。
異常な高温が続き、誰もが汗ばむある夏の日々を描いた本作は、寺山修司著書の一節から着想された、当時22歳の女性監督が手掛けた渾身のロードムービーである。アジアの異国を思わせる中華街や市場、そして鮮やかな新緑の草原など彼らの旅路を彩る様々なロケーションの移ろいは、観る人を日常からどこかへと連れ出してゆく。日本の見慣れた街並みから外れた“無国籍”な雰囲気が取り巻くこの世界で、私たちは彼らの愛、そして希望を目撃するだろう。第40回ぴあフィルムフェスティバルにてグランプリ・ひかりTV賞を獲得後、なら国際映画祭学生部門NARA-waveではゴールデンKOJIKA賞と観客賞をダブル受賞など、数々の映画祭を席巻した珠玉の作品。
こぼれ落ちていく記憶と対峙する主人公エマを務めるのは、「赤い玉、」や「クマ・エロヒーム」で圧倒的な存在感を放つ村上由規乃。第19回TAMA NEW WAVEにてベスト女優賞を本作で獲得した彼女の演技は、各地で絶賛の嵐を巻き起こしている。エマを受け入れ、共に生きていこうとする少年バン役に上川拓郎。はつらつとして時に切ない彼の姿を丁寧に演じきった。
また、脇を固める俳優陣の圧巻した演技にも目が離せない。エマへ傾いていくバンを振り向かせようとする恋人のユリを演じるのは、映画「温泉しかばね芸者」やドラマなどで活躍する一方、監督作「ぱん。」などが話題の辻凪子。ヤンの妻であり、どこか不気味さを感じさせるペンションの女主人ルカに、「嵐電」の窪瀬環。ペンションに滞在する謎の浮浪人アキを「DRILL & MESSY」、「ウィッチ・フウィッチ」などに出演の佐々木詩音が務める。そして、「赤い玉、」や「ベー。」の吉井優が物語の軸となる人物、ヤンに挑んだ。
ひとつの季節に閉じ込められ、やがて明瞭になっていく彼らの孤独を独特の世界観で描き出した本作。 “忘れゆく”、あるいは“忘れられてしまう”という絶望の中に、この映画は、ある光を映しだした。
スクリーンの中で生き続けていく彼らの姿は決して忘れられない。
「さすらいの青春」は死語だが、
その実態であるエゴは永遠に美しい。
その永遠に『オーファンズ・ブルース』は
不可能な1ページを書き加えた。
青山真治(映画監督)
剥き出しで痛々しくも優しい愛のカタチを
スケッチしたせつない映画だった。
独自の映画センスは私の心を射抜き、
いつか見た懐かしい場所に連れて行ってくれた。
行定勲(映画監督)
俳優たちの何気ない小さな仕草の積み重ねだけで、
約90分の時間をぐいぐい引っ張る工藤監督の才能に感服!
暉峻創三(映画批評家)
主人公たちは成長ホルモンを自我の強化に注ぎ込んだ結果、
みんな童顔のまま大人になってしまったようだ。
その姿があまりに美しくて目がクラクラしてしまいました。
映画祭の審査員なんて本当は誰もやりたくないんです、
でも引き受けてしまうんです。なぜなら『オーファンズ・ブルース』
みたいなすごい映画に誰よりも早く出会えるから
冨永昌敬(映画監督)
映画界の素晴らしい未来への希望がここにある。
この作品に関わった全ての方々に、心からの賞賛を送りたい。
永瀬正敏(俳優)
記憶が長くはもたないらしい村上由規乃を追いかけていく
前半20分を見るだけで、
「新しい日本映画」という
フレーズは、このチームにこそふさわしい言葉だと
思わされるはず。必見です。
安川有果(映画監督)